【番外編 第5話】そして、正義は勝つ

※フィクションです。
「……緊張してる?」
ふくろうのテーブル越しに、田中玄蔵が鋭いまなざしを向けた。
佐藤直樹は静かにうなずいた。掌にうっすらと汗が滲んでいる。
「まさか、自分が詐欺師を誘い出して、証拠を取る役をやるなんて……想像もしませんでしたよ」
「おぬしはもう、ただの“初心者”じゃない。投資家として一皮むける時じゃ」
「直樹さん、心拍数が通常値より12%高いですね。深呼吸三回、推奨します」
AIMONがタブレットから落ち着いた声で助言してくる。
「ありがとう、AIMON。行ってきます」
直樹は立ち上がり、ふくろうの扉を開けた。背中に、玄蔵の重みある声が届いた。
「疑うことは、弱さじゃない。知ろうとすることこそが、強さじゃ」
面談場所は、博多駅近くのレンタルオフィス。窓のない狭い会議室。
詐欺グループの中心人物──山崎が、今日も変わらぬ営業スマイルで出迎えた。
「ようこそ直樹さん。VIP向けプランの詳細をお見せしますね」
「……はい、お願いします」
手の中には、ボールペン型の隠しカメラ。胸ポケットのレコーダーは、AIMONとリアルタイムでリンクされている。
山崎がテーブルに置いたパンフレットには、“短期3倍保証”“特別な内部情報”の文字が躍っていた。
「ね、これ見て。成功者の声もたくさん」
「これって、法律的には問題ないんですか?」
「グレーですけどね。投資の世界は情報戦ですから」
「アウト、入りました」とAIMONの声がイヤホン越しに届く。
そのときだった。
山崎が唐突に表情を変えた。
「……おかしいな。君、録音とかしてないよね?」
「えっ……」
「ちょっとスマホ、貸してもらえる?」
直樹の心臓が跳ね上がる。
その瞬間、部屋の扉が勢いよく開いた。
「警察です! 山崎健吾、あなたを詐欺容疑で任意同行します!」
「な……! お前、罠を……!」
「いいえ、真実を明らかにしただけです」
直樹の声は震えていたが、逃げなかった。山崎の怒鳴り声を背に、彼は深く息を吐いた。
数時間後。
『ふくろう』には、どこか晴れやかな空気が流れていた。
「……おかげさまで、終わりました」
コーヒーを前に、直樹がゆっくりと言った。
「ようやったな、直樹。ワシが20代のころなんぞ、詐欺と気づきもせんで、まんまと騙されたもんじゃ」
「そんな玄蔵さんでも?」
「そりゃそうじゃ。だが、そこから学べばいい。それが“投資家”じゃ」
AIMONが満足げに声を上げた。
「今回の証拠記録、非常に優秀でした。録音・録画・リアルタイム保存、法律にも完璧に対応しています。さらに、感情変化ログも取りましたよ」
「……感情変化?」
「最後、“警察が来た瞬間”、あなたの心拍数が最大化しましたが、“逃げる選択”は一度も浮上していませんでした。すごいですよ、直樹さん」
直樹は、小さく笑った。
「一人だったら無理でした。でも、玄蔵さんとAIMONがいたから、冷静でいられた。……投資って、“孤独な戦い”だと思ってたけど、違うんですね」
「そうじゃ。孤独に見えて、実は“信頼”の世界なんじゃ。自分を信じ、仲間を信じる力が、成功を呼ぶんじゃよ」
玄蔵がウィンナーコーヒーのクリームをすくいながら、優しく言った。
「さ、直樹。ここからが本番じゃ。自分に合う投資法、試してみようかの」
AIMONがにやりとした声で言った。
「“投資スタイル診断”システム、準備完了。あなたの性格と経験に基づいて、最適な投資手法を提案します。今度こそ、“騙されない選択”を」
直樹は、しっかりとタブレットを見据えた。
「……はい。これからは、知識で未来を守る投資家になります」
■ 今回の学び – 投資詐欺から自分を守るために
- 録音・記録は最大の防御。証拠があれば法的にも戦える
- 怪しい話はひとりで決めない。第三者の視点が真実を浮かび上がらせる
- 詐欺は“無知と孤立”を狙ってくる。だからこそ、「知識」「冷静さ」「仲間」の3つが防御力になる
- 投資の本質は、「信じるに足るものを見抜く力」。焦りと欲は詐欺の温床
- 正義は時に小さな一歩から始まる。でもその一歩が、自分を守り、人を救うこともある
話をうのみにせず、“具体的にどう儲かるのか”を問い続ける姿勢を忘れない
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